自然なこと、だったんだ。
春に芽が出て、夏に花が咲いて、秋に実が熟して、
やがて・・・ぽたりと落ちて土に還るように。
私が天真くんに惹かれたのは、自然なことだったんだ。
大学に入ってすぐ、
友達たくさんつくれるといいなと思って、とあるサークルに入った。
数多く存在するサークルの中でそこを選んだのは、
ちょっと特殊な規則があったから。
「サークル内の男女交際禁止」
大学生になったからには、恋人が欲しいとはりきっている友人たち。
彼らを否定するわけではないけれど、
私は男女関係なく、みんなでワイワイ楽しくやりたいと思っていた。
恋愛沙汰はわずらわしい・・・とさえ思っていた。
とはいえ、私の思惑とは関係ないところで、
ちょこちょこ男の子たちに誘われたりもした。
そうして声かけてもらって、イヤな気はしない。
でも・・・
うわべだけの言葉の羅列。
耳心地のよい甘い言葉。
冗談とも本気ともつかない言葉に揺れてしまう、
ウブな自分が恥ずかしかった。
だから、意地になっていたのかもしれない。
"私はそう簡単には落ちない女よ" って。
でも、もう一つ、私が意地になる理由があった。
それに気づいたのは、だいぶ後のことだけど。
サークル仲間として出会った、天真くんの存在だ。
かっこいい男の子だな・・・というのが第一印象。
背も高くて、きりりとしてるけど、人一倍バカ騒ぎが好きで、
サービス精神も旺盛で、笑うときは破顔!ってくらい大笑いする。
ちょっと口は悪いけど、実は誰よりも気を配ることができる人であることは、
少し話せばすぐにわかった。
その場の雰囲気だけでなく、周りの人の気持ちも察して、
次の行動にうつすことができる。
この人は頭がいい!そう、思った。
そんな天真くんだから、女の子にも当然モテた。
でも不思議なことに、特定の彼女をつくろうとはしなかった。
サークルを大切にしていることはそんな行動からも伝わってきた。
そしていつしか私も、
天真くんと一緒にサークルを盛り上げていくんだ、なんて気になっていた。
二人でバカやって、周りのみんなを楽しませて。
そんなことができることが、ただ嬉しくて、楽しくて。
サークルに所属している以上、望むことはできない "彼女" という立場。
でも "同志" としてなら隣に並び立つことができる。
私は天真くんに "同志" として認めてもらいたかった。
そんなことまで考えるようになってしまうほど、
私は天真くんのことが好きになっていた・・・
大学3年になった頃、
そろそろ就職活動の話が友人らの間にも出始めた。
私は大学を卒業したら、独立しようと漠然と考えていた。
在学中に経験した留学の影響もあった。
親元から離れて生活する初めての経験だったが、
自分のことは自分でやるという、ごくあたりまえのことが身に染みた。
けれど・・・
実際部屋探しを始めてみると、なかなか厳しい。
親は家賃は気にするなと支援を申し出てくれたが、
最終的には自分の給料すべてでまかないたいと考えていたから、
そう高額の家賃のところに入るわけにはいかない。
とはいえ、いいなと思う物件は結構いいお値段。
現実を学ぶのも社会勉強、と割り切ってはみたものの、
その日も空振りに終わった不動産屋巡りに疲れ、
私は一人、とぼとぼ歩いていた。
すると、訪れたことのある不動産屋の前に、見覚えのある姿があった。
"天真くん?"
私が近づいていることにも気づかず、
真剣に店頭に貼り出されたチラシをみつめている。
"そっかぁ・・・天真くんも独り暮らしを考えているんだ・・・"
気づかないのをいいことに、
天真くんの背後から一緒になってチラシを眺めてみる。
「都内のワンルーム…高けぇ」
うん、うん、高いのよ、そうなのよ。
ひどいよねぇ。
ワンルームなんて、若いぺーぺーが暮らすための部屋のはずなのにねぇ。
「ワンルームでもこんなにすんのか・・・」
「高いよねー」
つい、同意が声になって出てしまった。
天真くんは驚いて振り返った。
でも、私はそ知らぬ顔して、とある一枚のチラシに見入っていた。
「ね?天真くん、これ、見て」
見つけたのは一軒家のチラシ。
ワンルームがダメなら、いっそ一軒家は?なんて、
無謀とも思えるチャレンジだったけど、築30年となるとここまで安くなるらしい。
「ええ!12万!安い!」
「でしょう?ユニットバスじゃないし。でも一人じゃ払えない家賃だよね」
「そうだな。ルームメイトでも居ればなあ…広いしさ」
天真くんの言葉に、ぴん、とひらめいたのは、
留学した先でルームメイトと部屋をシェアしていた経験が
ものをいったのかもしれない。
「天真くん!いい事言った!」
「ん?」
きょとんとしている天真くんと目があった私は、
思わずにんまりと笑ってしまった。
◇天真さんとの同居が決まった時、あなたがまず口にした台詞は?
「本気よ」
当然のことながら驚いた天真くんに、「ま、まじで?」ってきかれたけど、
私はわざとしれっとして答えていた。
だって本当にナイスアイデアだと思ったんだもの。
海外では男女でルームシェアリングなんてことも普通に行われている。
日本でやっちゃいけないことはないはず。
とくに、サークル内でもウルサイお祭コンビと思われている私たちなら、
なにやってもおかしくない雰囲気がある。・・・気がする。
でも当然のことながら、天真くんにはこう反論された。
「おい、本気なのか?俺、男だぜ。親が何て言うか。」
「親?平気。私は信用あるし、もう成人しているんだよ?それに…」
「それに?」
「天真くんなら安全だもん」
いいじゃん。お笑いコンビなんだから。
天真くんだって、私のことはおもしれー奴、ってくらいにしかみてないでしょう?
普通の女の子だなんて、思ってないでしょう・・・?
言葉を失っている様子の天真くんを尻目に、私はさっさと店内へと入った。
怒涛のイキオイで話をすすめていく私を、天真くんは特に止めようとはしなかった。
ということは・・・
無言の了承、ってことよね?
新しい我が家となろうとしているその家は、
築30年とはいえなかなかしっかりした平屋一軒家だった。
小さいとはいえちゃんと門扉もついてて、中に入ればちょっとしたスペースがあった。
そういえば、天真くんが時々バイクで大学に来ていることを思い出して、
「ここに、バイクが置けるね」
と言うと、「あ、ああ・・・」と今思い出したかのようにうなずいている。
ちょっと。
ぽかんとしすぎ!
まだなにもないこの部屋とかみてるとさ、イメージわいてくるもんじゃない?
「ここ、こたつ、置いていい?私が持ってくるから」
古い家だから、冬とか隙間風とかで寒かったりするかもしれない。
寒いのが苦手な私にとって、こたつの有無は死活問題に近い。
まだ春なのに先走りすぎ!ってつっこまれたけど、
暖かいうちは普通の座卓として使えるんだからいいの!
リビングの窓の外には、小さな庭もあった。
「天真くん、見て」
思わず指差して、窓にかけよってしまう。
「庭付きなんて贅沢だね」
そう言って振り返ると、天真くんは少しあきれたような、
けれど、
とても優しい顔をして微笑んでいた。
◇では、その時の心の声は?
(ちょっと強引だったかな・・・)
不動産屋の主人と私に、言われるがままに手続きをしていく天真くんをみて、
正直なところ、少し不安になった。
珍しく表情のない天真くんの横顔からはその感情を読み取ることが出来なくて。
でも。
天真くんは自分の意見ははっきり口に出す人だし、
いまさら私に遠慮するような人でもないはず。
あくまで、
互いの利害関係が一致したから実現したルームシェアリング。
"同志" から、就職戦線を共に戦う "戦友" になったような気持ち。
ここまで天真くんに近づくことができた。
"彼女" なんて立場よりも、ずっと誇らしかった。
続く。